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Lily

Lily 





白、白、白。
見渡せばいつの間にか白しかない世界。

季節はもう12月。
あの日からほぼ毎日僕はここに来ている。
病院独特のアルコールの匂いも慣れれば苦にはならず、むしろ心地良いくらいに感じる。

病室のドアを数回ノックして開ける。
そこもまた真っ白な世界。
白の壁、天井、ベッド。
窓の外には白い雪と季節外れの百合の花。

そこに君はいた。
世界と対比したように胸下まで伸びた真っ黒な髪。
世界に隠れるように真っ白な肌。
目元には泣き黒子。
それが僕の、僕の大好きな君。

僕に気づくと君はもはやお決まりの言葉を口にした。

「また来たんですね。どこかの誰かさん」

はにかむ笑顔が、僕を闇に溶かしていく。


事の発端は少し前。
偶然見つけた百合の髪飾りがあまりに可愛く、君にプレゼントしたのがきっかけで。
お礼にご飯奢るよ、と言ってきかない君。
僕としては君と少しでも何かを共有したかったから髪飾りをプレゼントしただけで、
その結果一緒の時間も共有できるなんて思ってもみなかったわけで。

正直料理の味なんてわからなかった。
少しでも君との時間を永く、永く過ごしたくて。
慣れない会話や恐らく面白くもなんともない僕の話を真剣に聞いてくれ、時には笑ってくれた
君を、僕はより一層好きになってしまった。

帰りの信号待ちの時。
このまま時が止まってしまえば、なんてどこかの小説から引用したような言葉が
頭の中を駆け巡っていた。
たった一言「君が好きです」これが言えなくて何度後悔したか。
でも今日の僕は何か違った。余裕が全くなかったのが逆に良かったのかもしれない。

このままの関係でいたい、という安全な場所に居たがる僕を強引に押し殺し、
君に僕の気持ちを伝えた。

ちゃんと言葉になったかわからない。どもったりしてないだろうか。早口ではなかっただろうか。
目の前がぐるぐる回ってる気がした。

君は凄く驚いたようで、でもそれから伏せ目がちに視線をそらした。
これが結果を物語っていると思った僕の頭は急速に覚めていった。
うわ、やってしまった、と酷く後悔しようとした。


「私も・・・好き、です」


思いもよらない返事に逆に僕が驚かされた。
恐ろしく間抜けな声が出てしまった。
それを聞いた君からクスクスと笑い声が聞こえた。
いまいち正常に機能してない頭を必死に動かして、君の発言の意味を理解した僕は、
ようやく君の顔をまともに見た。
少し涙ぐんだような目で、はにかんだような笑顔で僕を見つめて、
「よろしくお願いします」
と言った君を、ただ見つめる事しか出来なかった。


そこからは本当に一瞬だった。
目の前の君の顔が歪んだような気が、
その君に横に突き飛ばされた気が、
僕の居た場所に、君が今居る場所に車が突っ込んで来た気が、
全てを一瞬で理解するには僕の頭のキャパシティがずいぶん足りなかったようで。

君は歩道にはね飛ばされた。
真っ白な地面を塗りつぶすような赤。
真っ白な君を塗りつぶすような血。
初めて君を抱きしめた時に見えた、君の白と赤で染まった顔を見て、
酷く綺麗だと、僕は感じた。

そこからはよく覚えていない。
君が目覚めたのはそれから3日後。
僕を見た最初の言葉は「無事で良かった」ではなく
「あなたは誰?」だった。

そして冒頭の様に、僕は毎日君のもとへ通うようになった。
幸い軽症だった僕はすぐに退院でき、日常の中に復帰できた。
君は未だに病院のなかだった。

君はまだ僕がプレゼントした百合の髪飾りをしている。
「思い出せないけど、これは凄く大事な人から貰ったものだと思うから」
と、常に肌身離さずに着けているらしい。

もう君の記憶は戻らないらしい。
君の時間と記憶は比例する事は無いらしい。

僕はそれでもいいと思った。
無くなったのならまた一から作っていけば良いと、これからは二人で一緒に歩いていけばいい、と
そう考えていた。
そして頃合いを見て、もう一度ちゃんと君に好きだと言おう。
どもりながらでも、早口でも、もう一度想いを伝えよう。
君はまたあの時と同じ様に、はにかんだような笑顔になってくれるのだろうか。



君の容態が急変したとの報を受けたのは夜明けだった。
僕は急いで病院に向かった。
君は沢山の無機質な何かにつながれたままだった。

必死に声をかけた。沢山名前を叫んだ。
もう一度君の声が聞きたかった。
はにかんだ笑顔が見たかった。
あの時のような少し涙ぐんで、でも僕をしっかり見つめてくれる君を。

まだいかないで、まだここにいて。
僕を独りにしないで、君の記憶はここにある。
ないのなら僕と作ればいい。
まだなにも始まってないのに。
まだ君に届けてないのに。




手のぬくもりと、微かに聞こえていた君の心音は、僕の中に溶けていくだけだった。


窓の外は白。
この部屋の中も、君の肌も、窓辺に咲く百合も、
君が大事にしていた髪飾りも。
世界中すべてが、真っ白になっていた。




君の寝顔は、まるであの日みたいに綺麗で。

白い百合が似合う君。
赤い血が似合う君。

そのなにもかもが、僕には酷く愛おしく。


もう動かない君を抱きしめる。


伝えられなかった言葉を

今届けるよ。

聞こえないかもしれないけど、

ちゃんと届くといいな。





「愛してる」






君の声が

聞こえた気がした。






きこえてるよ




君の目から、ひとつ涙がこぼれた。




白、白、白。

今もこの世界は真っ白だ。
君と同じ、透き通る様な白。

世界と対比したように胸下まで伸びた真っ黒な髪。
世界に隠れるように真っ白な肌。
目元には泣き黒子。
それが僕の、僕の大好きな君。

僕が世界で一番愛した君。
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Author:音坂 キョーヘイ
ピアノ弾いたり曲作ったりしてます

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